僕の置き場所。

誤字脱字の激しい小説擬です。

僕の話を聞いて、(短編)

懇願する、僕はとても醜く見えただろう。

夏が緑も土も空気も濃くして行く。そして、ニードルが皮膚を抜ける様な寡黙で白い日差しの中、死臭が僕の背中にべったりとはりついた。

新宿2丁目の小さなバーで、僕と言う人間は辛うじて存在している。

どうもこうもない、皆んなの視界に映るだけで必要な人として存在してないのだ。客と目が合えば下を向き、カウンター下の小さな冷蔵庫の霜取りに、勤しむ。只管に手が悴み、僕の指の第一関節はぽろっと落ちるのではないかと言う程、霜と向き合っている。

ジントニックとあと皆んな好きな物を飲んで!!」喜びの声が上がる。常連の言う皆んなに僕は含まれていない。

身長も小さく異様に細く出来たこの身体、ただ小回りがきくから狭くて薄暗いこの店内で便利なのだ。

皆んなの、頂きと客のジントニックも作る。グラスを冷やし氷の霜を落として、カクテルメジャーでジンを計り、瓶のトニックウォーターをグラスを、傾けながら丁寧に泡立て無いように注ぐ。

少し視界が、揺れた。冷え切った指が、自分の指がジントニックに浮かんでいる様に見えた。

多分、僕は話たいんだ。誰でもいいから、   先輩から呼び出された。

黒いビニールと手袋を、渡された。

「悪いんだけど、キッチンの奥にネズミが居てさ、処理してくれ無い?まだ、生きてんの、俺さ、ハムスター飼い始めてまじ可愛そうで無理で、」

僕は、先輩の目を覗き込む様に見つめながら、はい。と小さく返事をした。

キッチンの限りなく奥に、べたべたとしたネズミの罠に小鼠が1匹。              べたべたとした接着だけが、着いた状態で床にべったりとくっ付いた、同じく兄弟であろう小鼠が必死に声を上げ続けていた。

客にバレ無い様に、剥き出しの命の聲を、脳内で聞き擦り切れた洋楽ヒップポップチャートの音響を大きめにする。誰も気づかない。

先に罠にかかっていた方を罠ごと畳んで、しまった。キィキィと僕だけに懇願する様な悲し聲が聞こえる。

問題は、罠の接着で床にべったりと張り付いた、小鼠の方だ。慎重に噛まれない様に首の後ろ側から手を差込む。

ああ、普通の握力では剥がれない事を悟った。剥がせば、首の骨は折れ、内臓が破れてしまう。

もう一度、首の後ろ側から、今度は力強く手を差し込んだ。

「ギャァ」僕にだけ聞こえる、断末魔。痛いよね、ごめんね、ごめんね、すぐ楽にしてあげるからね。口ずさみながら、勢い良く引き剥がす。首の骨が折れる感覚、内側で内臓がぶちぶちっと引き裂かれる感触が手先にも伝わってくる。

絶命。

ごめんなさい、君と同じ命なのに。僕らの物差しで殺してしまってごめんなさい。虚の眼のまま、呼ばれた先を見上げた。

「マジでごめんね、丁度○○さんきてショット祭り始まちゃってさ。本当に可愛そすぎて無理でさまじ助かったよ笑。でさ、裏からゴミ捨て場に棄て…」

珍しく相手の言葉を遮って、口から言葉が走り出した。

「まだ、片方は生きてるんです。一緒に殺します。」

相手は、口角が、上がったままの顔で「酷くね?俺ハムスター飼ってるっていたよね、ささっと棄ててきて。グラスが、まじ、もうなくて洗って欲しいんだよね。」

最後まで聞取れなかった。いや、聞こうとしていなかったのかも知らない。先輩の言葉は、どうも僕には、使い終わった黄ばんだ包帯をしゅるしゅると剥がし、その先端を掴み損ねた様な感覚でしか無い。

キッチンの奥から外階段で、ゴミ捨て場迄降りてゆく。古い建物特有の軋んだ音とキィキィと叫ぶ、まだ生きてる1匹の聲が絡まって耳から鼻粘膜が痛い。

ゴミ捨て場は、大繁盛しているようでゴミだらけであった。

キィキィ。

こいつは、このまま、おそらく兄弟であった生き物と死体と身動きが取れないまま餓死か、体力が尽きるのを待っていないと行けないのか…

空を仰ぐ、大量の他店のゴミがまた鼻腔をひりつかせた。

頭の中で、一瞬と小さな身体の10時間位を天秤に掛ける。

キィキィ。

天秤が振り切れた。僕は、殺した。袋を地面に置いて、頭部を狙って思いっきり踏み殺した。

小鼠の頭蓋骨は、薄焼きの小皿の様な感覚を残して、僕は命を奪った。

10秒程呆けていた。殺した、感覚がスニーカーを、倒して全身に伝わる。

しゃがみ込み、どうぞ安らかに、信じる神の身元へ。と震える手をあわせながら小さく小さく何度も呟いた。

ゆっくりと立ち上がると、鼻からストンと血が垂れた。然程では、無いため袖口で拭きながら、正面の入り口からお店へ戻った。

お客様の間をくぐり抜けながらわキッチンの洗い場に立つ。

「あ。やっだー!!この子鼻血出てるじゃ無い!!!」常連の客が、放った言葉は店全体に伝わった。口々に、大丈夫?どうしたの?と言う今まで、かけれることがなかった言葉が、降り注ぐ。

「あ、なんか…興奮しちゃって…?」はは、と乾いた笑い声と一緒に不慣れなことを言った。

店は、どっと沸いた。「鼻血垂らしながらそんな顔して笑って〜!!もう、あんたも好きなの飲みなさい!!」いつのまにか、僕の周りに人が集まり次々に奢ってくれた。

「そうだ、あんた、いっつも奥にいるから、名前なんて言うの?」

 


ああ、そうだ。そうだった、靴底を床に擦りつけながら、強く思った。

 


僕の話を聞いて、